映画『国宝』感想｜吉沢亮×横浜流星　圧巻の女形芝居と愛憎に心を揺さぶられる3時間

2025年春に公開された話題作『国宝』は、原作：吉田修一の同名小説を映画化した一作。主演に吉沢亮、ライバル役に横浜流星を迎え、女形の世界と人間の業（ごう）を描いた濃厚なドラマが展開されます。

この記事では、映画館で実際に鑑賞した私的な感想をネタバレなしでレビュー。あらすじ・見どころ・注意点・おすすめ層まで、じっくり解説します。

『国宝』の基本情報・あらすじ

まずは、国宝の基本情報とあらすじを見てみましょう。

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実際に観た感想：圧倒的な芝居と映像が生み出す重厚な世界観

①ライバル関係に心が揺さぶられる

吉沢亮さん演じる喜久雄と、横浜流星さん演じる俊介。出自も育った環境もまるで違うふたりが、同じ舞台の上で対峙していく姿に、何度も胸を締めつけられました。

喜久雄は血の匂いが残る任侠の家に生まれながらも、女形として芸の世界に身を投じていく孤独な存在。俊介は、家柄も才能もそろった“約束された未来”を持つ男。

最初はぶつかり合うふたりが、やがてお互いの中にしかない何かを感じ始め、言葉にならない思いが交錯していくのが本当に切なくて、美しかったです。

対立しているようで、どこか深く通じ合っている。その関係性はただのライバルとか友情とか、そういう単純な言葉では言い表せないものでした。ふたりが交わす視線ひとつ、沈黙の間ひとつにも、静かな熱が込められていて、気がついたらずっと目が離せなくなっていました。

②原作の世界を生かした映画ならではの映像美

原作の空気感はそのままに、映像になることでさらに深みと迫力が増していて、最初から最後まで目が離せませんでした。古き良き昭和の雰囲気、舞台裏の緊張感、舞いのしなやかさ――そのひとつひとつが丁寧に描かれていて、原作を読んでいたときには感じきれなかった“匂い”や“温度”まで伝わってくるようでした。

なかでも、アパートの一室で喜久雄が舞うシーン。あの瞬間は、本当に息を呑む美しさでした。部屋の狭さと静けさ、差し込む光、汗や息づかい――全部が重なり合って、言葉では言い表せないほどの説得力があって「映像で観てよかった」と心から思えた、そんな場面の連続でした。

衣装や照明、美術も本当にすばらしくて、何気ないカットにもこだわりが詰まっていて、作り手の“本気”が伝わってきました。

③感情と化粧がシンクロする名場面に圧倒される

この映画のなかで、忘れられない瞬間がいくつもありました。そのなかでも特に印象に残っているのが、涙や汗で崩れていく化粧と、あふれる感情がぴたりと重なるシーンたちです。

舞台の上で、自分の感情を押し殺して役に徹しようとする喜久雄。でも、舞いながらこぼれる涙、にじんでいく紅、滲む白粉――そのすべてが「彼の心そのもの」に見えてしまって、気づいたら私まで泣いていました。

本来なら“崩れてしまう”はずの化粧が、この映画では美しさと痛みを伴った表現として活きていて、まるで感情に呼応するかのように、役者の顔が変化していくんです。

「こんなのズルいよ…」って正直思いました。でもその“ズルさ”が、演出として完璧で、心を動かさずにはいられなかった。

気になった点：上映時間の長さとテーマの専門性

映像も演技もすばらしくて、あっという間……と言いたいところですが、やっぱり3時間という長さは、ところどころ“体力”を求められる瞬間もありました。

物語に入り込めていたからこそ、少し緩やかになる場面では「ここはもう少し絞ってもよかったかも」と思ってしまった部分も。

そして、物語の軸が“女形”や“歌舞伎”という特殊な世界なので、ある程度の知識や興味がないと、理解が追いつかないところがあるかもしれません。私も、言葉やしきたりの意味をなんとなくでしか捉えられない場面があって、「もっと知っていたら深く味わえたのに…」と思うことが何度かありました。

それでも、作品そのものが語りかけてくる力は十分すぎるほどあって、わからないながらも“感じ取れる”部分はたくさんありました。

映画『国宝』はこんな人におすすめ

本作は、歌舞伎という伝統芸能の世界を舞台に、人間の業や芸への執念、そして愛と嫉妬が絡み合う濃密なドラマが描かれています。

3時間という長尺にふさわしい重厚さと深みがある一方で、観る人を選ぶ部分があるのも事実。それでも、「これは自分に刺さりそう」と思える方には、間違いなく心に残る一本になると思います。

ひとつでも当てはまる方には、ぜひ劇場でこの濃密な世界観に触れていただきたいです。

心をえぐるような感情のぶつかり合いや、息をのむ舞台のシーン――スクリーンでしか味わえない感動が待っています。

まとめ｜邦画でここまで心を動かされたのは久しぶりだった

『国宝』は、役者の魂を削るような演技と映像の美しさが融合した、“観る者の心に深く残る邦画”でした。

とくに印象的だったのは、厳しい稽古の様子や、芸に人生を捧げる男たちの姿。美しいだけではなく、“血筋”や“業”といったテーマにまで踏み込んでおり、芸の世界の残酷さや魅力をリアルに描き出しています。

一部の価値観に引っかかる描写もありますが、それすらも考えさせられる深い余韻が残る作品。吉沢亮と横浜流星の存在感を強く焼き付けてくれる、間違いなく劇場で観る価値のある一作です。